ここ数年、AR・VR・MR・SRといったxRテクノロジーが発展し続けており、すでにPlayStation VRなどのゲームをはじめとしたコンテンツ界隈を中心に取り入れられている。今回は、このVRによる仮想空間がどこまで現実世界、およびそこでの体験を再現することが可能なのかについて難しい話は抜きにして考えていきたい。
VRの現在地
まずはあくまで民間利用されているものに限ってではあるが、現在、VR技術でどのようなことが実現されているかを見てみよう。ざっくりできることは下記2つになる。
・頭や体の動きに合わせて、仮想空間上での視点や視界が変わる。
・手に持ったデバイスで仮想空間上のデバイスを操作できる。
これらをより噛み砕いてみてみると、下記情報がデジタル↔︎リアル間で伝達可能になっていると考えることができる。
【デジタル→リアル】視覚情報、聴覚情報
【リアル→デジタル】体の動き(頭の位置/向き、手の位置/向き)、声
※聴覚情報はVR技術そのものとは関係ないが、すでに仮想空間上と情報を伝達できるため記載
リアル体験をVRで完全再現するには何が必要か
では、リアルでの体験をVRで完全再現するためには、デジタル↔︎リアル間でどんな情報を伝達する必要があるのだろうか。それは以下情報が考えられる。
【デジタル→リアル】視覚情報、聴覚情報、嗅覚情報、味覚情報、触覚情報、肌感覚情報(温度・湿度・振動など)
【リアル→デジタル】体の動き(頭の位置/向き、視線、手の位置/向き、指の動き、体の向き/移動)、声
ざっと考えただけでも上記が考えられ、前章の現在伝達可能になっている情報と見比べてみても、まだリアル体験の完全再現には程遠いことが伺える。(伝達する必要のある情報がもっとあることを考えればなおのことである)
情報伝達をどのように実現するのか
今開発が進んでいるのは、あくまで外部デバイスによって仮想空間上での経験をリアル世界に伝達し、各種センサーを用いてリアル世界での動きをデジタル世界に取り込む方法である。
(ジャケット型のデバイスで振動を再現するなどは既に取り組みが進んでいる)
ただしその方法だとどうしても無理が生じてしまう。そもそも外部デバイスやセンサーで仮想空間↔︎リアル世界間でどれだけ精緻に感覚を読み取り再現することができるのかという課題ももちろんあるが、もっとも課題となるのが「体の移動」である。
基本的にリアル世界に手を広げられるだけのスペースがあれば体の移動以外の体の動きについては問題なく動かすことができ、その動きを仮想空間に伝達することが可能だろう。しかし「体の移動」については、そうはいかない。仮想空間上で体が移動すればするほどリアル世界でも体が移動してしまうので、仮想空間と同じ広さの空間が必要になってしまう。
ただそうすると結局仮想空間で実現できる広さがリアル世界での動ける広さによって制限を受けることになってしまう。(そもそも仮想空間を見て聞いている状況でリアル空間を動き回るのは危険極まりない。)
そうすると思い浮かぶのが、360°任意の速度で動くことができるランニングマシンのようなものに乗ってVR体験をすることであるが、危険なくかつ違和感なく移動体験を再現することが可能なのかと言うと怪しいところである。
フルダイブ型VRは実現可能なのか
前章で書いてきたように、外部デバイスや各種センサーを用いて仮想空間↔︎リアル世界で情報伝達を行う方法では、安全性の問題とどこまでいっても違和感を拭えないのではという2点からリアル世界での体験を仮想空間上で完全再現するのは難しそうな気がする。
そこで2番目に思いつくのは、感覚の電気信号と運動の電気信号を直接脳とデバイス間でやり取りする方法である。そうすると、動かしたい動きが直接仮想空間へ、感じるべき感覚が直接脳に伝達されるので非常にリアル世界での体験に近い体験を仮想空間上で体験することが可能になるだろう。
だが、もちろんこちらの手法にも課題はたくさんある。むしろこちらの手法の方が課題がたくさんある。そもそも脳からの運動に関する電気信号を読み取り、脳へ感覚に関する電気信号を伝達するテクノロジーが必要である。また、その中でも運動に関する電気信号についてはデバイスで読み取るだけではなく、リアル世界の体へは伝わらないように遮断する必要がある(これをしないと結局「体の移動」問題が解決しない)。さらには体の運動以外の内臓を動かすなどの生命維持に必要な電気信号については遮断してはいけないといった開発要件も発生する。
当然、他にも様々なリスクへの対処も必要である。デバイスが脳機能や運動機能へ介入するので、それらの機能へ障害を与えないようにしなければならないし、脳の許容量を超える電流を流すことで簡単に殺害もできてしまうデバイスになってしまうと思うのでセキュリティー面での強固さも必要である。
最後に
ここまで書いてきたようにフルダイブ型VRには多すぎる課題があるため、実現までにはまだまだ長い時間を要しそうである。なので、リアル世界での体験を仮想空間で再現する試みは、どこまでいってもリアル世界での劣化版になってしまうため、旅行を含めたリアル世界での体験へのニーズはまだまだ今後も発生しそうである。ただ仮想空間上ではリアル世界では体験できないことを体験できるので、それは仮想空間ならではの価値になるだろう。
もし、フルダイブ型VRが実現できるようになれば、リアル世界の体験も仮想空間上で再現可能になるし、仮想空間でしか体験できないこともよりリアルに体験できるようになるので、もしかしたらリアル世界での体験よりも仮想空間での体験の方が価値を持ち、大半の人がリアル世界よりも仮想空間の中にいる時間が長くなるようになるかもしれない。
そしてそれは今はまだ遠い未来のように思えるが、想像もできない技術革新によって近い将来実現可能になることもあるかもしれないとも思っている。
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